野口宇宙飛行士訓練レポート 第16回
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STS-114クルー (写真提供:NASA) |
ただし、打上げ延期は必ずしも後ろ向きな出来事ではありません。確かに時計が逆回しされるような、一種の停滞感を伴うのは否めないですが、真摯に過ごしてきた時間や訓練は無駄になることはありません。たとえ2ヶ月先に打上げが延びても、自分が2ヶ月前よりもずっと成長しているという確信が持てれば、あせりは感じません。打上げ延期を、自分達の完成度を高めるために与えてもらった期間と捉えて有意義に過ごしたいと考えています。つまるところReturn To Flight(飛行再開)とは、単にコロンビア事故の前に戻ることではなく、現時点で最も安全かつ完成度の高いミッションへの挑戦です。常に前向きに、打上げの瞬間までその挑戦を続けたいとの決意を新たにしています。
さて、JAXAのホームページで募集している応援メッセージに多数の書き込みをいただき、ありがとうございます。
時間があるときに読ませていただいてます。思わず微笑んでしまうような小さな宇宙ファンの一言や、こちらが背筋を伸ばして拝読したくなる年配の方からのお言葉など、どれも大変励みになります。宇宙への知的な探究心、いつかは自分も宇宙旅行したいという願い、子供達に大きな希望を持たせたいという親心。かたちは違いますが、皆さんがこのSTS-114というミッションに夢や希望を託して下さっているのがひしひしと伝わってきました。
ターミナル・カウントダウン・デモンストレーション・テストを行うSTS-114クルー (写真提供:NASA) |
イタリアン・ルネサンスを生きた学者マキャベリの言葉にこんなものがあります。
「ある事業が成功するかしないかは、いちにその事業に人々を駆り立てる何かがあるかないかにかかっている」
皆さんからのメッセージを読むと、このSTS-114、スペースシャトルの復活という事業に、皆さんを駆り立てる「何か」が確実に存在すると感じさせられます。それは夢であり、希望であり、決意です。私自身もこの1年、まさしくそのような「何か」に駆り立てられてこのミッションに打ち込んで来ました。冒頭に書いた通り、明けない夜が来ることはありません。たとえ延期を繰り返したとしても、必ずシャトルはまた打ち上がる。そのために必要な準備期間が予想より長くかかろうと、私達を駆り立てる「何か」が色褪せることはないと思っています。夜明けまで、もう一歩。
2005年6月