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野口宇宙飛行士について 任務や訓練レポート、記者会見を紹介します
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野口宇宙飛行士訓練レポート 第16回
「明けない夜が来ることはない」

最終更新日:2005年6月20日

日本の皆さんこんにちは。ヒューストンの野口聡一です。
既に報道されていますように、STS-114ミッションの打上げは7月に延期になりました。打上げ可能な期間(打上げウィンドウ)は7月13日から7月31日となっています。コロンビア事故の時も打上げ1ヶ月前での中断でしたが、今回も打上げ4週間前まで来たところで安全対策の徹底のため、打上げ延期が決定されました。

NASAから発表されている通り、打上げ延期の理由は非常に明確ですし、安全対策の追加や不安定要素の排除のために必要な時間を確保するため、妥当な選択であったと思います。STS-114クルーもコリンズ船長以下、直ちに7月打上げに向け訓練計画の見直しを行い、新しい日程に沿って訓練に励んでいます。

技術的な延期の理由には納得しているものの、打上げ延期による心理的な影響は無視できません。宇宙飛行士に限らず管制センター、現場の作業員も打上げ日時に向かって懸命な努力を続けていたのですから。例えばオリンピック選手が1ヶ月前になってオリンピック開催延期と知らされるようなものでしょうか。我々STS-114のクルーはコロンビア事故を挟んで4年以上に渡り訓練を続けてますから、2期目のオリンピックに入るようなものです。張り詰めた緊張感を一旦緩めて、新しい打上げ目標日に最高の状態に持っていけるように、訓練計画を練り直し、軌道修正することが必要になります。

写真:クリックすると拡大します
STS-114クルー
(写真提供:NASA)

ただし、打上げ延期は必ずしも後ろ向きな出来事ではありません。確かに時計が逆回しされるような、一種の停滞感を伴うのは否めないですが、真摯に過ごしてきた時間や訓練は無駄になることはありません。たとえ2ヶ月先に打上げが延びても、自分が2ヶ月前よりもずっと成長しているという確信が持てれば、あせりは感じません。打上げ延期を、自分達の完成度を高めるために与えてもらった期間と捉えて有意義に過ごしたいと考えています。つまるところReturn To Flight(飛行再開)とは、単にコロンビア事故の前に戻ることではなく、現時点で最も安全かつ完成度の高いミッションへの挑戦です。常に前向きに、打上げの瞬間までその挑戦を続けたいとの決意を新たにしています。

さて、JAXAのホームページで募集している応援メッセージに多数の書き込みをいただき、ありがとうございます。

時間があるときに読ませていただいてます。思わず微笑んでしまうような小さな宇宙ファンの一言や、こちらが背筋を伸ばして拝読したくなる年配の方からのお言葉など、どれも大変励みになります。宇宙への知的な探究心、いつかは自分も宇宙旅行したいという願い、子供達に大きな希望を持たせたいという親心。かたちは違いますが、皆さんがこのSTS-114というミッションに夢や希望を託して下さっているのがひしひしと伝わってきました。

写真:クリックすると拡大します
ターミナル・カウントダウン・デモンストレーション・テストを行うSTS-114クルー
(写真提供:NASA)

イタリアン・ルネサンスを生きた学者マキャベリの言葉にこんなものがあります。
「ある事業が成功するかしないかは、いちにその事業に人々を駆り立てる何かがあるかないかにかかっている」

皆さんからのメッセージを読むと、このSTS-114、スペースシャトルの復活という事業に、皆さんを駆り立てる「何か」が確実に存在すると感じさせられます。それは夢であり、希望であり、決意です。私自身もこの1年、まさしくそのような「何か」に駆り立てられてこのミッションに打ち込んで来ました。冒頭に書いた通り、明けない夜が来ることはありません。たとえ延期を繰り返したとしても、必ずシャトルはまた打ち上がる。そのために必要な準備期間が予想より長くかかろうと、私達を駆り立てる「何か」が色褪せることはないと思っています。夜明けまで、もう一歩。


2005年6月

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