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野口宇宙飛行士について 任務や訓練レポート、記者会見を紹介します
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野口宇宙飛行士訓練レポート 第6回
「コロンビア号の破片探索作業に参加して」

最終更新日:2003年4月23日

日本の皆様こんにちは。

コロンビア号の事故から、早いもので2ヶ月以上が経ちました。我々STS-114クルーは、事故以降、遺族の方々のサポート、技量維持訓練の継続、事故調査活動への協力を行っています。

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写真提供:NASA.JAXA

その一環として先日、テキサス州とルイジアナ州で今も地道に続けられているコロンビア号破片探索作業に参加しました。場所はテキサス州東部のナカドチェス(Nacogdoches)市の森林地帯です。ナカドチェスは、4つある破片探索基地の中でも最も大規模な場所で、事故当日いち早く機体の破片が発見された場所でもあります。

今でも毎日1,200人以上の人が探索作業を続けており、連日のように新しい部品が発見されています。全体としてはこれまでに60,000ピース以上の破片が回収され、それはコロンビア号重量の約4割に相当するとのことでした。回収された破片は最終的にケネディ宇宙センターに送られて、事故原因解明作業に役立てられています。

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写真提供:NASA

朝早くヒューストンを出発した我々STS-114クルーは、ナカドチェス空港に到着後、さっそく森林警備隊、安全担当者、探索チームのリーダーから、作業に関する説明を受けました。ナカドチェスでは今月初めに探索作業中のヘリコプターが墜落する事故があったり、探索中に毒ヘビにかまれた作業員が出たりしているので、安全対策は非常に念入りでした。そして安全ヘルメット、防眼ゴーグル、皮手袋と防護服に身を包み、いざ探索チームの待つ森林に出発です。

探索チームは通常20名一組です。どの地域を探索するかは、当日の朝、破片探索基地での指示により決められます。現地では3m間隔で全員一直線に並び、リーダーの号令により森林の中をまっすぐに進みます。 途中沼地があろうと倒木があろうと関係なく、ひたすら決められたルートを進むのです。我々STS-114クルーも探索チームの最前線に加えてもらいました。私の加わったグループはヒスパニック系の作業員が多く、リーダーの指示もスペイン語です。アルト(止まれ)、モビエンドサ(進め)、ディエス・ピエス(10ft間隔を保て)。。。片言のスペイン語を話すうちに、作業員とも打ち解けてきました。  準備ができたところで、いざ森の奥に向かって出発! 最初の数分こそ容易に進めたのですが、すぐに深い森になってしまいました。まさに誰も足を踏み入れたことのないようなところを、探索チームは黙々と進みます。分厚い防護服と、装備をいれたバックパックを背負っての行進なので汗でゴーグルが曇ります。視界が悪く、3m隣にいるはずのメンバーも見失いがちです。また下草が深いので足を取られる上、前の週に降った雨でぬかるんでいるところも多く、バランスを失って倒れそうにこともありました。こんな状況の中で、破片を探すのは容易ではないことが身にしみてよく解りました。

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写真提供:NASA

それでも探索を始めて1時間くらいたったころのこと。私のすぐ横の人が耐熱タイルの破片を発見しました。長さ20cm、幅5cmくらいでしょうか、もちろん真っ黒にすすけていますが、間違いなくコロンビア号のものです。

「いやー がんばってここまで来てよかった!」
と思った反面、このタイルが2月1日の朝、コロンビア号から離れてここに落ちてきて、今日まで誰の目にも触れずこの森の中で埋もれていたと思うと、なんだかコロンビア号の遺骨を拾っているような気持ちに襲われました。見上げると、森の上には抜けるようなテキサスの青空が広がっています。事故のあった2月1日もテキサスは晴天でしたが、こんな空を見ながらコロンビア号の飛行士達は散っていったかと思うと、改めて彼等の冥福を祈らずにはいられませんでした。

我々はその後も探索を続け、約2時間後に集合地点に戻ってきました。そこでコリンズ船長やケリー飛行士と再会しました。コリンズ船長のグループは、ヘビが出てきて大変だったようです。破片を見つけたのは我々のグループだけのようでした。

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写真提供:NASA

今回、破片探索作業に参加してみて解ったことは、破片探索が想像していた以上に大変な作業であることです。事故直後とは違い、人の目に触れる場所での破片はもう回収されているので、探索場所は森林地帯や沼地、あるいは湖などの水中になっており、困難度が日毎に増しています。そんな状況でも作業員達は黙々と探索を続けており、そんな地道な作業の一つ一つがコロンビア事故の原因究明に繋がっていると思うと、彼等への感謝の気持ちでいっぱいになりました。また現地では大勢の人がボランティアで探索作業をサポートしてくれていました。STS-114が次に打上げ予定のミッションだと解ると、皆口々に”Return to Flight”に向かって頑張ってくれと励ましてくれて、本当に胸が熱くなる思いでした。大勢の人達の努力によって有人飛行が支えられていることを痛切に感じ、応援してくれている皆様のためにも、ミッションを成功させなくてはとの思いを新たにしました。

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写真提供:NASA
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