野口宇宙飛行士訓練レポート 第3回
「毎日の訓練はジョンソン宇宙センター内が中心です、時には大空でも。」
最終更新日:2002年6月11日
宇宙飛行士は、毎日打上げに向けて、様々な訓練をしています。訓練は主にアメリカ・ヒューストンにあるジョンソン宇宙センター(JSC)で行っています。今回は、今月実施した訓練のいくつかを具体的に紹介しましょう。
モーション・ベースを使った訓練
今STS-114訓練の中でも一番時間を割いているのは、モーション・ベースと呼ばれるシミュレータを用いたものです。これは、シャトルのコックピット内を模擬した可動式のシミュレータで、油圧式で飛行状態に応じて動きます。その他にも色々な種類のシミュレータがあり、ミッションの内容や参加するクルーに応じて、使うものが変わります。例えば、ロボット・アーム操作の訓練やスペースシャトルと国際宇宙ステーション(ISS)のドッキングのための訓練には、その専用のシミュレータを利用することもあります。また、参加人数が少ないときには、動かないけれどモニタの表示が正確なものや、簡易なシミュレータを使うなど、時と場合に応じて、使い分けられています。
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写真提供:NASA.JAXA |
モーション・ベースは新人訓練の時から使用していましたが、同じメンバーで繰り返し訓練するのは、最近のクルー訓練が始まってからです。今はスペースシャトルの打上げや帰還など、ダイナミックな動きのある訓練を行っています。特に打上げや帰還の際には、短時間に多くの作業が発生するので、協力しながら各メンバーが何を見て、どんな責任分担で事にあたるか、シミュレーションを通じて習得していく必要があるからです。
また、動きや振動が激しい中で、画面からデータを読み取ったり、情報を他のメンバーに伝えたり、地上からの指示を的確に聞き取って手順書の必要なページを開いて操作する、ということが確実にできるように心がけています。
先日は、実際の打上げ/帰還のときに着用するオレンジ色のスーツ(Launch and Entry Suits:
LES)を着て訓練をしました。いつもの普段着での訓練と違い、加圧されたスーツを着ていることや手袋をしていることで動きが制限され、操作しにくいことがわかりました。また、私はパイロットの後ろに座るのですが、前方のパネルの様子が、膨らんだ服で見えにくくなり、他のパネルや機器の状態で把握する必要がでてくるなど、色々な点が違うということを理解するための訓練でした。
T-38飛行訓練
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写真提供:NASA.JAXA |
時には、センターの建物内だけでなく、T-38というジェット機を使った飛行訓練も行っています。パイロットのジムと2人組で空を飛ぶ中で、クルー・コーディネーションを学んだり、T-38ジェット機のシステムを学ぶことによって、宇宙船の様々な機器の操縦、操作の仕方の勘を養っていくのです。
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写真提供:NASA.JAXA |
T-38ではパイロットと前後に座り、お互いが協調して飛行しています。例えば、何か異常が発生したときには、後ろの人がチェック・リストを確認して前の人が操作をしたり、長距離飛行の場合には、前半後半で操縦を交代するなど、より良いチームワークを築き上げることができますし、T-38を自分で操縦することで、パイロットの仕事を理解して、能力をあげることができる訓練です。
STS-114ミッションのときにも、パイロットの後ろで、支援をすることになっているので、2人のクルーコーディネーションをより高めることや自分のパイロットとしての技量をアップさせることを目指して飛行訓練に臨んでいます。
無重量環境訓練施設(NBL)での緊急脱出訓練・サバイバル訓練
宇宙飛行士は、飛行中に万が一異常があったときでも、安全に帰還できるような訓練もおこなっています。打上げ・帰還時にシャトルに異常があったときには、まずは降下して着陸を試みますが、その途中で3つのうち全部のエンジンが止まってしまった場合や、重大な航法機器が故障してどちらの方向を向いているのかわからなくなった場合には、安全に脱出できる姿勢にもっていき、ハッチを開いてひとりずつ飛び出すことになっています。
スペースシャトルは打ち上がると大西洋の方向を向かって飛んでいきます。したがって、飛び出したときには海に落下することを想定して、ハッチからの脱出と救助が来るまで耐えるためのサバイバル訓練がNBLと呼ばれる巨大プールで行われました。
打上げと帰還の際に着用するLEスーツとパラシュートバッグの中には、医療キットや緊急いかだ、浮き輪、水・食料、携帯ラジオなど、様々なものが入っています。海に着水した後は、パラシュートから脱出し、いかだを膨らませて乗り込む練習などを行いました。
NBLは、通常宇宙空間での無重力状態を作り出すための施設で、5月末からは船外活動に向けた本格的な訓練が始まります。この訓練については、また今度詳しくお話しましょう。