このページの先頭です ヘッダーなどをとばして、このページの本文へ
野口宇宙飛行士について 任務や訓練レポート、記者会見を紹介します
ここからサブメニュー ここから本文

野口宇宙飛行士訓練レポート 第15回
「ミッション固有訓練とスペースシャトル飛行再開に向けた取り組み(3)~ミッション管制センターとの統合訓練~」

最終更新日:2005年3月15日

日本の皆様こんにちは。
STS-114打上げまで2ヶ月をきりました。クルーは順調に訓練を進めており、スペースシャトルの機体も打上げに向けて最終組立作業に入っています。
今回の訓練レポートでは、ミッション管制センター(Mission Control Center: MCC)との統合訓練の様子をご紹介しましょう。

本番さながらのリハーサル

写真
MCC
(写真提供:NASA)

統合訓練は、1年間の訓練の総仕上げとも言える大掛かりなイベントです。スペースシャトル「ディスカバリー号」に乗る我々宇宙飛行士(以下クルー)、MCCのフライト管制官チーム、そして組織としての意思決定を行うミッション管理会議(Mission Management Team: MMT)のメンバーなど、実際のミッションのキープレーヤーが全て参加し、フライトプラン(飛行計画書)を本番通りにシミュレーションします。日々の訓練はひとつひとつの操作を習得することに主眼が置かれますが、この統合訓練は本番前の舞台稽古に相当する、と考えればよいでしょう。訓練は完了した、手順書も準備OK、でもフライトプラン通りに全員が動いた時にこれまで見落としていた問題がないだろうか?クルーと地上、あるいはMCCとMMTで今のうちに整理しておくべき事項は残っていないか?そういった懸念を払拭するための試験、とも言えるかもしれません。我々クルーからすると、クルー全員の立ち位置、MCCへの交信のタイミング、手順書の不明瞭な点など、入念にチェックする、貴重なチャンスでもあります。

48時間「耐久」訓練

写真
MMT
(写真提供:NASA)

今回のシミュレーションは、打上げ前に16回予定されている統合訓練の中でもとりわけ大掛かりな、打上げから国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングまで実に48時間ぶっ通しの統合訓練です。時間の長さもさることながら、今回はミッション運用の意思決定機関であるMMTが平行して開催され、現場だけでなく管理職の意思決定に関わるプロセスのシミュレーションも兼ねていたのが特徴でした。本番通りのフライトプランに沿って進めつつも、あらかじめ設定された不具合シナリオ(クルー、フライト管制官には知らされない)が次々に投入され、リアルタイムで対応していきます。つまり定常作業を滞りなく決められた時間でこなしていくことと同時に、不具合に対しても遅滞なく判断・対応していくことが求められるわけです。その場合キーになるのはクルーとMCCのスムーズな意思疎通、MCCでの的確かつ迅速な判断、そしてクルーのミスのない作業遂行能力、と言ったところでしょうか。


そしてLIFT-OFF!

写真
ACESを着用した野口宇宙飛行士たち
(写真提供:NASA)

さて本番。打上げ当日同様、オレンジの宇宙服(Advanced Crew Escape Suit: ACES)に着替えたクルーは、5月15日の打上げ予定時間に合わせてシミュレーター入り。本番と同じ時刻に固体ロケットブースタ(Solid Rocket Booster: SRB)が点火すると、後は本番さながらにMCCとの交信が始まります。 第一声は船長からヒューストンへ、スペースシャトルの正常動作を告げるこの一言です。

"Houston, Discovery, Roll Program!"
「ヒューストン、こちらディスカバリー号。(スペースシャトルの)回旋プログラム正常始動。」

写真
訓練データを確認するチャールズ・カマーダ宇宙飛行士
(写真提供:NASA)

打上げから軌道投入、そしてコンピュータのセットアップやロボットアームの初期起動など、タイムラインに沿って着々と作業を進めます。ひとつひとつの作業はもう何度となく訓練したことばかりですが、手順書と実作業にずれはないか、7人が狭いコクピットで平行して複数の作業をこなす上で問題はないか、地上の管制チームとの意思疎通がスムーズに進んでいるか、などに注意して作業を進めました。さて今回設定された不具合シナリオですが、打上げ直後に機体右翼に落下物が衝突、という、コロンビア号事故を彷彿とされるものでした。新しく設置された翼の衝撃センサも落下物の衝突を確認しており、早速センサ付き検査用延長ブーム(Orbiter Boom Sensor System: OBSS)での外観点検に注目が集まります。アンドリュー・トーマス、チャールズ・カマーダ、ジェームス・ケリー宇宙飛行士が担当する外観点検が実施され、レーザー計測装置による取得データがMCCに送信されると、さっそく地上で待機していたエンジニアチームによる解析が始まり、結果がMCC、更にMMTへ伝えられます。解析作業に要する時間、情報伝達にかかる時間、MMTでの討議内容、意思決定に至るまでの時間全てが、本番に向けての貴重なデータになります。

写真:船外活動訓練を行う野口宇宙飛行士
写真提供:NASA

今回はやはり飛行再開ということで内外の注目度も高く、統合訓練の模様もなんとNASA TVで生中継していたのには驚きました。中継を見ていた私の友人に言わせると「本番のミッション中の雰囲気と同じだった」そうで、NASA TVも舞台稽古していた、ということですね。ともあれ大きなヤマ場だった48時間統合訓練が終わりました。我々クルーはこれからが胸突き八丁、打上げまでの8週間をノンストップで駆けていきます。


2005年3月

▲このページの先頭へ
このページの本文はここまでこのページの先頭に戻る