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野口宇宙飛行士について 任務や訓練レポート、記者会見を紹介します
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ジョンソン宇宙センターで記者会見(2003年1月7日)

2003年1月7日、スペースシャトル「アトランティス号」の打上げを約2ヶ月後にひかえ、野口宇宙飛行士がヒューストンにてプレス会見を行いました。

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野口宇宙飛行士 取材陣

野口:最初に、あけましておめでとうございます。宇宙飛行士の野口聡一です。いよいよアトランティス号の打上げが迫ってきました。現在、3月1日の打上げを目途に、我々STS-114クルー4人と第7次長期滞在クルー3人の7人で訓練を進めています。訓練は今のところ順調に進んでおり、ちょうど先週CEIT(Crew Equipment Interface Test)という実際に飛ばすフライト品の最終確認とアトランティス号の中に入って船内のスイッチや配線、あるいはいろいろな機材の配置などを確認する作業を実施し、士気が高まってきたところです。日本の皆様からもいろいろ応援をいただき非常に感謝しています。2ヶ月後に打上げ、そして約2週間のミッション。私は3回の船外活動(Extravehicular Activiity: EVA)を担当することになっています。このミッションを順調に成功させ、また日本の皆様に国際宇宙ステーション(ISS)の様子や宇宙から見た日本の様子などをお話しできることを楽しみにしております。

Q1:ミッションの行程は全部頭の中に入っていると思うのですが、どこが最も本番で神経を使うと思いますか?

3回EVAを行う予定なのですが、最初のEVAを始めるところまででしょう。現スケジュールでは、5日目に第1回目のEVAがあるのですが、ISSのエアロックから出ることになっているので、いろいろな準備は、ISSにドッキングしてから始まることになります。その意味では3日目にドッキングして4日目に様々な作業がありますが、実際に準備してEVAでハッチを開けるまでが、現状非常に忙しいタイムラインになっており、そこをうまくこなせれば、その後生じるかも知れない船外活動中のトラブルへの対処なども含め、順調にミッションを進められるのではないかと思っています。

Q2:その3回のEVAについては自信があって、コツをつかんでいるということですね?

そうですね。このミッション特有のものを含め、既に12~13回、NASAジョンソン宇宙センターの無重量環境訓練施設(Neutral Buoyancy Laboratory: NBL)での訓練を実施しています。私ともうひとりのミッションスペシャリスト(MS)のスティーブン・ロビンソンの2人で3回のEVAを行う予定ですが、2人の息がとても良く合うようになり、インストラクターやフライトコントローラの方からも非常にいい仕上がりだと言われています。このままあと何回か残る訓練を実施する予定で、明日も行うのですが、それらの訓練を大事にしていけば、ミッション中もうまくいくのではないか、と思っております。

Q3:ISSでEVAを行うことに、何か不安などはありませんか?

そうですね、不安というのはないですね。確かに危険なことはいくつかあります。デブリ(宇宙ゴミ)の問題もありますし、スペースシャトルのペイロードベイ(貨物室)の中で行うのと違って、実際にISSのはじっこの方まで行ったときにデブリが当たる可能性や、何かあったときにISSから離れてしまった場合に、戻ってくるのが大変になったりするので、危険なことというのはいっぱいあります。しかし、普段の訓練の中で何が危険であってその危険な状態が実際に起きた場合にはどのように対処するのかを理解し、訓練してきていますので、準備はできていると思います。

Q4:今回の3回のEVA中、実際にISSの中でアームを動かされるんですか?

私は船外に出てしまうので、STS-114クルーのパイロットであるジム・ケリー宇宙飛行士がアームの担当をします。

Q5:こうした活動を 「きぼう」の打上げなど、将来の宇宙開発にどのように生かしていきたいですか?

そうですね、私のEVAはISS組立てにおける標準的なタスクが多いので、「きぼう」日本実験棟打上げの際のEVAに非常に参考になると思います。もちろん私にとっても参考になりますし、今日本で最終行程に入っている「きぼう」のいろいろな作業を準備しているエンジニアの方やフライトコントローラの方にとっても非常に参考になると思います。よって今後は、EVAにかぎらず、ISSが運用段階に入った頃、例えばクルーの交代や、新しい実験機器の搭載、物資の補給など、・・こうした作業というのは「きぼう」の運用にも直接関係してくるので、今回のミッションを機に日本にさまざまなノウハウを伝えていければと思ってます。

Q6:これまで日本人宇宙飛行士の方々が宇宙に行かれて、パフォーマンスを行うなどして宇宙のすばらしさを伝える努力をしてこられましたが、野口宇宙飛行士は宇宙に行ってどのようなことをされるのですか?

今回は、特別に教育イベントということで時間をとってあり、今NASDAの方で準備を進めています。これまでも宇宙授業という形式で行ってきましたが、日本の子供たちが普段使っているようなおもちゃ、あるいは普段食べ慣れているものに近い食べ物、そういうものをISSから紹介したいと思っています。それは日本の皆さんに対しての語りかけでもあり、ISSとは世界15カ国が協力しあって実施しているプロジェクトですので、日本の文化を紹介して、アピールするいい機会かなと思っています。

Q7:アメリカ生活で、特に日本食はなつかしくなりますか?

そうですね。無ければ無いで過ごしてしまうのですが・・・。日本食ってヘルシーですよね。魚とか、みそとか、そういったものは特に食べたくなります。

Q8:地球が懐かしくなると思いますか?

2週間という短期であれば、ある意味キャンプに行っているようなものなので、多分大丈夫だと思うのですが、今後「きぼう」が打ち上がって、日本人が半年あるいはもっと長く滞在するようになったら日本食がいろいろと選択できるようになっているのが望ましいと思っています。

Q9:これまでの宇宙飛行士と野口さんとの違いはありますか?どういう点をアピールしたいですか?

特に大きく違っている点はないと思っていますが、普通の人っぽいかな?と自分では思っています。ですので、より皆さんに親しみを持って見ていただけるのではないでしょうか。他にはISSの、特に運用段階に入って最初の段階ということで、実際に宇宙で暮らしている姿というものをお伝えできるかなと思っています。今回、私は短期フライトですが、第6次長期滞在クルーと一緒に還ってきますし、第7次長期滞在クルーは私と一緒に飛びます。そういった意味で、第6次長期滞在クルーから、長期滞在クルーがどのように準備をしているか、ISSの中ではこういう機械をこういうふうに活用しているなど、宇宙生活経験者の切り口から宇宙飛行を学ぶことが出来、それを皆さんに伝えられるのではないかと思っています。

Q10:フライトが延期されてきておりますが、それに関して不安はありますか?

そうですね、2001年4月に搭乗が決定した時点では、2002年7月が打上げ予定でした。それが11月に延びて、翌年1月に延びて・・・、現時点で3月1日打上げ予定。ただ、結論から言えばあまり関係ありません。我々クルーとしてはともかくその日、あるいはその週に計画されている訓練をしっかり吸収してミッションにつなげることに集中していますので、例えば11月予定のものが1月に延びたり、1月といわれていたものが3月に延びたときに、この先2ヶ月暇になるな・・ということではありません。自分の中で今できることは何で、それに向けて必要なステップは何かということを常に考えています。その意味ではあまり延期ということは気になりません。むしろ今、ここまでくると、(今のところあと7週間ですが、)もうちょっと時間が欲しいという感じです。準備は進んでいるのですが、自分の中でそれを整理する、そういう時間がもう少しあれば・・と思うほどです。ただ、士気は非常に高い状態で、高いまま保っています。

Q11:日本はもちろん、世界的にも、経済、政治ともに厳しい時代。そうした厳しい時期にミッションに参加されるということで、何か特別な意義あるいは期待というものはありますか?

ISSの大きな目的として国際協力があります。こういう緊張が高まっている時だからこそいろいろな国からそれぞれが持っているリソースや技術を持ち寄って、同じ平和の目的に向かって活動していることは重要なことだと思うのです。その意味で今回のフライト、あるいはISSでの活動を通して、国と国とが協力しあってより崇高な平和という目的に向かって一緒に歩んでいるということをアピールしたいと思います。

Q12:若い世代に何か伝えたいことはありますか?

若い世代、子供たちも含めてですが、時代の閉塞感というものがあると思うのです。そうした感覚は我々大人も感じていますが、子供たちのほうがより敏感にそういうものを感じ取っているのではないでしょうか。その意味で、その閉塞感に何らかの形で風穴を開けたいなという気持ちはあります。そこで、ひとつの切り口が宇宙開発ではないかと思うのです。普段の日本での生活も重要ですが、そこから離れて自分たちの未来、可能性というものが宇宙に広がっているということを感じてもらえればうれしいです。例えば、そこに自分の将来の道を見出すとか、今の閉塞感を突破して新しい可能性とを見出してもらえるのではないかと思っています。

Q13:安全性に関して、シャトルに乗ることに不安はありませんか?

昨年(2002年)の夏、配管のクラックでシャトルが飛べない時期がありました。しかし、これはある意味では非常に安全な状況と言えます。というのは、それを発見せずに飛んでしまって不具合を起こしてしまう、という問題を未然に防ぐことが出来たからです。点検という段階で問題点を発見してそれに対して必要な処置を徹底的な時間をかけて行うことで非常に安全な状況が保たれていると思います。そう言ってもシャトルも初飛行から20年以上経っており、一部の機体はいろいろ老朽化して問題を起こしているというのは事実です。が、逆にこれらの事実を日本としては今後の宇宙開発に活かせるのではないでしょうか。今のところ日本は使い捨てのロケットだけで毎回ぴかぴかに磨き上げて打ち上げを進めてきておりますが、どこかの時点で再利用型に移す、あるいはISSはまさにそれで、「きぼう」が打ち上がったらその先10年~15年は続けて運用していくわけですから、その途中で必要とされる補修作業や不具合対策がどんどん出てくると思われます。それらをシャトルプログラムでの対応の仕方から学んでいく必要があるのではないかと思います。

Q14:そうすると今回のフライトで特に心配はないとのことですね?

ええ、そうですね。もちろんこれから打上げまでの間に新しい問題が発見される可能性は当然あって、その時には我々クルーとしても安全が確認されるまで徹底的に対策をたててもらうということは強調したいと思っています。

Q15:4人というシャトルクルーの人数についてはどのように感じますか?

通常シャトルフライトのクルーというのは5~7人で、我々も乗組員としては7人ですが、シャトルフライトのミッションを担当するのはSTS-114クルーの4人のみで、必然的にひとりあたりの担当作業が増えてきます。これまでの日本人宇宙飛行士搭乗フライトだけ見ても、7人のクルーというフライトがかなり多かったのですが、今回4人ということでルーキーとしてはかなり多い担当業務を持っていると思います。

Q16:今回スペースシャトル内で担当する業務は?

今回、打上げ時にはパイロットの補佐としてフライトデッキに座る予定です。また帰還時にはISSに滞在していた3人のクルー(第6次長期滞在クルー)が還ってくるのですが、彼らは帰還のときには椅子に座らないで、床に寝て還ってくるのです。無重量の世界からいきなり重力の世界に還ってくるとまさに立ちくらみのような状態になってしまうので、寝て還ってくるのです。そこで、何かあった時に彼らを助け出す役割が必要で、私がミッドデッキに座って、ミッドデッキで必要な作業と、ISSに滞在していたクルーの手助けを担当することになっています。もちろんそれ以外には3回のEVAがありますし、シャトル船内のフォトTVと呼ばれるビデオ機器の担当として、船内にあるすべてのカメラとビデオとフィルムの管理といった業務も行います。

Q17:いろんな任務があると思いますが、一番重要なことは何ですか?

今回のミッション中、最も重要な任務はEVAだと思っております。EVAは2人で行うのですが、私が主担当ということでEVA1という役割を与えられています。実際の3回のEVAはもちろんのことですが、今の訓練の段階から実際にどういう手順で作業をすることかを含めて私はクルーの代表として見ておりますので、今回のEVAは最初から最後まで、訓練からあるいは帰ってきてデブリーフィングを行うところまでを含め、すべての責任を私一人がもっていると感じています。

Q18:ISSの計画が全体的にやや遅れ気味で、完成するのが2008年以降になってしまいましたね。そうした遅れの中で、野口さんとしてはどういう風につなげていきたいと思っていますか?

ふたつあります。ひとつはここまで進んで、完成へのペースが非常に上がってきていると思っています。昨夏の配管のようなシャトルの機体の問題は別として、それ以外は、例えばロシアのサービスモジュールがなかなか上がらなくて何ヶ月も遅れを取るなどという問題はもう起きないのではないかと思います。今のところNASAのオキーフ長官も来年のノード2の打上げについて、(ちなみに2004年の2月に予定されているのですが、)"コアコンプリート"という言い方をしており、これはもう遅れがでないように努力をするんだという意識の現れであり、もう遅れは出ないのではないかと考えます。もうひとつは、モジュールによっては準備が遅れているとのこともありますが、すでに運用に入っているわけで、クルーも滞在を開始しており、そこから得られた実験データも既に成果が出てきています。あまり最終的な完成日時にこだわる必要はないのではないでしょうか。例えば、ダムの建設などと違って最終段階まで完成しないと使えないわけではないのです。ISSはもうすでに運用に入っています。いつぐらいに最終段階に達し、完成するというのはあまり意識しないで、むしろ日本人が最初に滞在し始めるのはいつか、あるいは実際にいろいろな実験データが得られていますので、それらがいつ頃から生かされるのかということ、そういったことのほうが重要なのではないかと思います。

Q19:ISS建設の意義は何と考えていますか?

そこでも得られる科学的な成果はもちろんとして、前にも述べましたが、プロジェクトであるということは重要でしょう。現在のように国際間の緊張が高まっているときだからこそ平和な目的に向かっていろいろな国々が共同して作業ができるんだと、それを示す絶好の場所なのではないかと思います。それからやはりISSが最終目的ではないわけですよね。宇宙利用というのはこれからどんどん広がっていくと思っていますが、例えば月面や火星といった、将来の宇宙探査に向かって重要なものであると思っています。

Q20:野口さん自身が宇宙で何を見てきたいと思っていますか?

宇宙そのものというよりは、宇宙で暮らすということはどういうことなのかを肌で感じてきたいです。もうひとつは宇宙から見た地球の姿。宇宙に行かないと地球は見られないので。そういう意味で宇宙から見た地球の姿というものをしっかり瞼に焼き付けて帰ってきて、そしてそれを伝えたいと思っています。

Q21:将来的にはISSに長期滞在したいと思いますか?

そうですね、是非。「きぼう」が上がってから。私も「きぼう」の様々な開発試験などに参加させていただきましたけれども、その意味で愛着もありますし。そういった意味で長期滞在して、本当にそこで長期間宇宙にいたときに何を感じるのか、楽しみです。そのための重要な一歩だと思っています。

Q22:この先、2度目のフライトについて考えることはありますか。

今回のフライト次第でしょう。または、いろいろな意味で1回目よりも2回目のほうが慣れてきてうまくいくとは思うのですが。今回のフライトは、次回ISSに行くときにはこうしようと値をつける貴重な機会だとも思います。

Q23:フライト前にご家族で何か話し合ったりしていますか?

子供たちにしてみれば、また出張に行くか・・というような感じでしょう、2週間くらいなものですから。なかなか訓練が忙しくなってきてゆっくり話をする時間がないですね。むしろ還ったときに出張の土産話ではないですが、宇宙の話、宇宙の姿とか伝えたいなと思っています。

Q24:準備は99%できている感じですか?

気分的にはまだまだ5合目のような感じですね。まだこれからの訓練スケジュールを見るとこれまでやったことの繰り返しというか、復習をかねて、やることが多くて・・・・。新しいことはないのですが。自分の中ではもう少ししっかり仕上げてまとめたいなと思うことがたくさんあるので、まだ5合目ぐらいです。

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