NASA JSCとJAXAで記者会見(2005年4月8日)
4月8日(金)午前8時15分から、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)とJAXA東京事務所を音声・映像回線で結び、飛行前最後の機会となる野口宇宙飛行士の記者会見を行いました。
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Real Video
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野口宇宙飛行士は集まった報道陣に対し、
「東京の皆さんこんにちは、そして会場の皆さんこんばんは。JAXAの野口聡一です。打上げまで1ヶ月あまりとなりました。昨日オービタがスペースシャトル組立棟から発射台の方に移動しまして、いよいよ射場作業が始まり、打上げに向けての様々な作業が本格化すると思っています。」
と挨拶して会見はスタートしました。
報道陣とのQ&A
野口宇宙飛行士に対するプレスからの質問と回答です。
【東京会場】
Q.一番楽しみにされてる仕事は?
3回の船外活動です。1回目はコロンビア号事故に基づく教訓を活かしての外壁修理、2回目はISSの姿勢を制御するコントロール・モーメント・ジャイロの交換作業、3回目は保管部品を乗せるための船外保管プラットフォーム2(ESP2)をISSに組み付けるので、全部に目玉がありますので、やりがいがあり、楽しみにしています。
Q.第1回目の船外活動で使うEWAの使用方法等を教えてください
EWAは最初の1時間で行うタイル補修のデモで使用するツールです。どういったものかというと、靴墨の道具を長くしたような感じで中から補修剤がでるような感じでタイルの表面に押し付けます。
Q.ラーメンを持って行くのに試食されたと聞いてます。味等の感想を聞かせてください
お子さんたちからも問い合わせは多々あります。日本食にはラーメン、カレーライス、中華ちまき、チョコレート菓子などあります。ラーメンは好みがあるので味噌、とんこつなどのフレーバーを持っていき他のクルーにも食べてもらって宇宙でラーメン談義ができると良いなと思っています。
Q.4月15日で40歳になられますが、宇宙飛行士の候補の30代及び不惑の年を迎えるにあたっての感想をお願いします
宇宙飛行士に選ばれてから9年。実際アサインされ訓練をつみ、新しいことの毎日で4年間は変化に富んでいました。歳と共に自分の経験値をあげていろんな活動ができればいいと思っています。このフライトを通じて得たことを日本の皆さん、JAXAの若手職員、新人宇宙飛行士たちに還元して行きたいと思っています。
Q.RTF(Return to Flight、飛行再開)の第1回との事ですが不安・意気込み教えて下さい。
コロンビア事故以降いろんな作業に係わってきました。事故直後は遺族サポートを行い、事故原因究明、スペースシャトルの復活に関して多くを学びました。特に有人宇宙飛行に係わるリスクの重大性や必要技術に関しては議論してきました。2年3ヶ月の教訓はスペースシャトルは充分安全であり、残るリスクを理解した上で有人宇宙飛行を続ける価値があると思っています。ISSを通じて得られる利益であったり、月や火星を目指していく中で知的刺激や夢・期待に関して我々には宇宙に対して挑戦していく価値があります。
【米国会場】
Q.事故防止について、デブリの脱落防止、脱落した場合のダメージ評価、深刻なダメージだった場合の修理の3段階あると思いますが、それについて現状を教えてください
飛行再開のための基本的な判断として、先ず第1にデブリ(破片)を生じないように外部燃料タンクの改修がなされました。次に概観検査です。打上げ時は地上や航空機、レーダによる監視があり、宇宙に出てからは宇宙飛行士によるカメラやレーザ計測など外観点検に多くの時間を割いてます。これらにより破片による損傷がないことを確認するのが目的です。
万が一機体の外部に損傷が見つかった場合、損傷規模によって判断が分かれますが、そのまま帰れるという小さな損傷の場合もあるし、搭載している修理機器で修理可能と判断される場合もあるし、あるいは修理不可能で一時的にISSへ退避し救難用のスペースシャトルの到着を待つというシナリオも考えられると思います。現時点では明確な判断基準は必ずしもそろっていませんが地上でのフライトコントローラ、運用責任者、その他色々な人たちの会議の結果によってシナリオが変わってくると理解しています。
いずれにしても、外部燃料タンクの設計変更と外観検査の手法が確立したことで飛行再開を迎えることができたと、我々としては十分な対策が立てられたと考えています。
Q.宇宙へ行くことの意味は何ですか?到着への瞬間の気持ちは?
夢の舞台であるとともに、次の時代に向かっての可能性を広げていく扉であると思っています。宇宙開発を通じて得られる技術的な還元、それによって若い世代へ与える刺激は大きいと思います。夢を目指して進んでいくということについてお手伝いできればすばらしいと思っています。先に日本ではH2Aも成功し今回のRTFがコロンビアからの復活になり、「きぼう」へと続くと考えてます。
Q.JAXA長期ビジョンなどでは有人宇宙技術は10年技術を蓄積してその後、国や国民の判断を仰ぐという考えになっているが少し悠長では?有人宇宙活動は日本の文化にフィットするか等教えてください
アメリカの同僚等でも日本の長期ビジョンは結構反響があります。日本のビジョンは有人とロボティクスをうまく融合したプランになっています。今後10年間は「きぼう」での活動がメインなので経験を蓄積した上で「きぼう」モジュールが終わるあたりから次の動きが始まるのは悪くないと思われます。さまざまな技術開発は今から見越す必要があります。
Q.シャトルの後継機で有翼型とカプセル型のふたつのプランがあると思うが、日本が独自の有人宇宙船を開発するとなるとどちらが良いと思いますか?
まず、目的機能面が優先だと思っています。つまりは「どんなことを一体したいのか」が優先です。新しいビジョンに沿ってどういう設計要求があるのか?を考えていくべきではないでしょうか?
Q.宇宙飛行士に選抜されてから9年、シャトル搭乗員に選ばれてから4年と長い年月が経っているが宇宙開発の心境等意義変化はありますか?
宇宙飛行士になったときは仕事につけたこと自体が満足でしたが、宇宙飛行士としてできることは何なのか?日本の宇宙開発のためにできることは何なのか?で悩むことはありました。
飛行再開の作業に係わっていく中で、失敗あるいは事故から学んで乗り越え作り直していくというプロセスはすばらしいことであると感じています。飛行再開の作業に参加することで得た失敗からの立ち直り、既存のものを改良するプロセスを日本の有人開発に活かして行きたい。
Q.持ち込む予定の本やCDなどを教えてください。なぜそれなのかも。
食事に関してはカレーやちまきやラーメンだったりしますが、宇宙飛行士の私物持ち込み枠があります。コロンビア号に乗っていたウィリアムー・マッコール宇宙飛行士は友人であり、野球好きだったので、コロンビア号の7名を追悼する何かをと思って「野球」に接点がありました。コロンビア号のパッチを付けた野球ボールに、メジャーリーグで活躍している7名の日本人選手のサインをしてもらって、それを持っていきます。
ウィリアムー・マッコール宇宙飛行士を始め一緒に訓練したり、遊んで過ごした7名のクルーの思い出をつめて持っていければいいなと思っています。
Q.ウェイクアップコールは何か決まっているのか?また予定の進捗が遅れていく事に関してどのような心境か?
ウェイクアップコールについてはまだクルーの中で相談していないので、何曲自分に割り当てられるのかはわかりません。日本の皆さんが聞いたときに、「ああ、あの曲か」とわかるような曲を選びたいと思っています。
打上げ日の延期に関しては、ロールアウト(組立棟から発射台への移動)が2日ほどずれてるので予備日が余りないことは聞いています。しかしクルーにとって1~2日週間程度の打上げ延期はむしろ歓迎です。余裕ができるので。士気が高い状態を保ったまま訓練の完成度を高めることに時間を使えると思っています。
Q.クルーの間で英語がうまい、訓練がベテランの宇宙飛行士のようにスムーズである、との評判です。これらはどのような努力の結果なのですか?
英語のことはさておき、クルー間のコミニケーションをしっかりしたいという気持ちはあります。このミッションにアサインされて最初にコリンズ船長に会ったときに、「Know
your job. Do your job. and Communicate.」と言ってくれました。自分の与えられた任務をちゃんと理解して、それをしっかり遂行して、その上でコミニケーションをしっかりしなさい。周りの人たちにも自分が何をやっているのか、他の人たちが何をやっているのかということに気を配るようにしなさい。ということだと思っています。
我々のクルーはコミュニケートということでは素晴らしいクルーであると確信しています。英語だけでなく相手のことを知ろうという気持ちがコミュニケーションの高さに繋がっているのだと思っています。
水中訓練に関しては、スティーブ・ロビンソンとふたりでこの4年間に60回ぐらい、計360時間潜っているのでスムーズな作業ができるようになってきています。船外活動の先輩に指導をもらうことができたのがとても大きいと思っています。
【東京会場】
Q.茅ヶ崎では烏帽子岩のライトアップ計画がありますが、見れるのかどうか?この活動をどう思うか?
日本の子ども達の中には夢を持てない子、かなえられない子がいますが、そういう人にむけてのメッセージをお願いします
茅ヶ崎の皆さんには応援してもらってありがたいと思っています。先ほど服部市長と電話会談して烏帽子岩がどういう風に見えるか大変興味がありました。ライトアップで協力していただけることは本当に嬉しいことだと思っています。
自分が今持っている夢に向かって進んでいくこと、夢を諦めずに努力し続けることが本当に大事だなと、自分自身の夢の実現を目の前にしてあらためて思います。
Q.奥様、お子様、御両親とはどんな話してるのですか?
子供たちは打上げ(フロリダ)が家族旅行のように楽しみに思っています。妻、両親も来ます。打上げを楽しんでもらいたいと思っています。
Q.一番厳しかったのは昨年の夏頃と聞いた。苦しかった頃に支えた自分の信条及び有人が一番必要なのはどういうところですか?
宇宙開発というものはロボティックスと有人の両輪がうまくまわって先に進むものと思っています。究極の目的は人間が地球環境を離れて生きていけるのかというところにあると思います。そういう意味では有人宇宙開発は不可欠です。
宇宙開発は環境あるいは境界を乗り越えていくステップの積み重ねですから、未知の領域に行くときに日本が得意分野を優先して使っていくのは非常に理にかなっています。従ってロボティクスによる無人探査や技術開発と、それを手中に収めた上で人間が行くという作業は十分両立すると考えています。
Q.野口宇宙飛行士自身が行う作業で一番難易度が高いのは?理由は?
3回の船外活動の中では、2回目に行うコントロール・モーメント・ジャイロ(CMG)の交換作業が一番大変だと思っています。600ポンド(約270kg)のものを自分の手で持って動かす事自体大変ですが、私はロボットアームの先端に乗って移動しますので、船外活動を行っているもうひとりの宇宙飛行士、船内でロボットアームを操作するジム・ケリー飛行士やチェックリストを確認するアンディ・トーマス飛行士など複数の人の連携作業がうまくいかないと作業が進まないので非常に難易度が高いと言えます。船外活動技術とロボットアーム操作技術の応用の好例であります。この船外活動を成功させて、その成果を若い技術陣に伝えたいと思っています。
Q.有人に関して残っている危険性の最大のものは?
コロンビア号の直接の事故原因は解消されたと思っていますし、事故調査委員会の勧告に対する対策はかなり進んでできたと思っています。勿論修理技術というものは1回で終わるものではなく、STS-114とSTS-121の2回がテストフライトという位置づけで、修理技術の最適解を求めていくことになっています。STS-114がRTF(Return to Flight、飛行再開)の完成品ということではありませんから、リスクは勿論あります。
スペースシャトルという乗り物に関しては、打上げ時にメインエンジンが止まるなど異常事態に対し安全な着陸を図るようにしていますが、その場合操作が難しいものもどうしてもあり、危険性を完全に排除することはできません。船外活動にしてもデブリ衝突の危険性を完全に排除することはできないので、そのような場合もうひとりの宇宙飛行士がどうやって救うか、訓練では行っているが、危険性としては完全に排除できません。我々宇宙飛行士は、ひとつひとつの危険性を認識した上で最善の対処を常に考えるのが大事であります。
Q.先ほど出た大リーガーのサインボールの名前を教えてください
本来はご本人の了解を得るべきですが。野茂、石井、松井(ふたり)、イチロー、長谷川、木田選手の7名。直接または球団広報をお願いしたものとあります。追悼の気持ちをくんでもらったようでうれしいです。
Q.ミッション中のフリータイムは?
ミッション中は忙しいのですが、窓から地球の様子を見たいです。ボールの話をしたらアイリーンは野球をしようと言っていました。
Q.「翔べきぼうの未来圏へ」は宮沢賢治の一説。どういう気持ち?
春と修羅の第4章だったと思います。最初変わった言葉だなと思いました。きぼうは「きぼう」モジュールとつながっており、宇宙は夢・希望、そこから未来への可能性につながっていることを強調したい、それに向かって我々は翔んでいくんだと。今やっていることは、我々から次の世代へ、子ども達の夢の実現、未来の可能性につながっているんだという気持ちを込めてこの言葉を選びました。
Q.EVA以外のミッションを教えてください。シャトルは若田さん以来4年半振りですが先輩飛行士からのメッセージはありましたか?
船外活動以外は多目的補給モジュール(MPLM)をISSへ結合/解除する担当です。打上げ直後の大事な任務として船内カメラ、テレビシステムの担当で、スペースシャトルの操縦席の窓から切り離し直後の外部燃料タンクの外観撮影を行い、撮影データを地上へ送ることで外部燃料タンク表面からの破片が落ちてないことを確認します。
【米国会場】
Q.お父様が技術者だったとのことで、お父様から得たもので宇宙活動に役立っていること。3人へのお嬢さんへの教育方針を教えてください。宇宙飛行士になりたいかどうかも
自分が持ってる技術に対する誇り、道具に対するこだわりは受け継いでいます。また子供の頃は日本は高度成長期だったからかもしれませんが工場が活気にあふれていて技術者として幸福な時代であったのだろう感じていました。それが技術者魂、職人気質の原点になっている気がします。
子供たちはやりたいことをやっていますが、多少反対されようがやりたいことをがんばりなさいと言っています。
Q.小さいころからユーモアがあったといわれていますが影響を受けた、本、映画などあれば教えてください。
小学校時代は関西に住んでいたので、関西人気質が残ってるような気がします。
Q.「先輩からのアドバイス」についてお願いします
若田飛行士は飛行再開に関する技術指導、ロボットアームの手順作成について係わっているので、アドバイスというよりは細かい技術上の議論を重ねてきました。
土井飛行士は日本人初の船外活動経験者ということで船外活動そのものの話をして、最近はNBL(無重量環境訓練施設)の訓練にも同席してもらっています。
毛利、向井飛行士は精神面で支えていただきました。去年のつらい時期にふたりとも打上げの前に延期になった経験があったので、乗り切るような助言をしていただきました。
4名のJAXA宇宙飛行士に助けてもらって、今ここまで来れたという気持ちです。
Q.左ききですか?そうであれば苦労した点や逆に良かった点などあれば教えてください
左利きです。困った事はほとんどありません。アメリカのツールは左利きにも考慮して作られており、船外活動用のピストル型パワーツールもレバースイッチを反転させることで両利き用に対応できるようになっています。左利きだからといって船外活動で困ることはないと思います。
Q.野口のニックネームは?他のクルーの人物紹介もお願いします
我々の中でニックネームは少ない方で、パイロットのジム・ケリーはベガスというニックネームがあるのですが、後は皆ファーストネームで呼んでいます。家族的でまるで高校の部活仲間みたいです。アイリーンとトーマスが経験者で先輩、ベガス、ジム・ケリー、チャーリー・カマーダは同級生、その上にウェンディー・ローレンスとスティーブ・ロビンソンがいます。特にスティーブと組んで仕事することが多いので、彼は2回のフライト経験がありいろいろなことを教えてくれるので感謝しております。
Q.NASA長官が変わったので組織は変わったのか?これで成功するとクルーの増員になるのか、今後のISS建設の課題など教えてください
長官に関しては代わったが、組織はボトムアップ/トップダウンの双方向性の組織改革があります。新しい長官のもとで組織改革が一気に進むことを期待しています。ISS計画は不透明なところがありますが、第1号機が上がってから7年経ち不透明さを乗り越えて今に至っています。これから国際的な調整の場で不透明なところを解決して、「きぼう」モジュールの運用につなげていけると信じています。